最高裁判所第一小法廷 昭和48年(オ)787号 判決 1974年7月22日
主文
理由
上告代理人井野口有市の上告理由第一点ないし第三点について。
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして肯認することができ、その認定判断の過程に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであつて、採用することができない。
同第四点について。
第一審において全部勝訴を得た原告も、控訴審において、附帯控訴の方式により請求の拡張をなし得るものと解すべきであり(最高裁昭和三一年(オ)第九一〇号同三二年一二月一三日第二小法廷判決・集一一巻一三号二一四三頁)、また、右にいう附帯控訴の方式が遵守されているかどうかは、形式的に判断すべきものではなく、訴訟記録に照らし、実質的に民訴法三七四条、三六七条の要件が具備されていると認めうる書面によつてされていれば足りるものと解すべきである。
本件において、記録によれば次の事実が認められる。すなわち、上告人は被上告人田近に対し、第一審大阪地方裁判所昭和四一年(ワ)第四四二五号所有権確認等請求事件において、(1)本件電話加入権(原判決別紙目録記載の電話加入権)が原告(上告人)の所有に属することの確認、(2)本件土地(同目録記載の土地)について訴外亡内谷さとの持分二分の一につき昭和二〇年一二月一七日の贈与を原因とする所有権移転登記手続及び(3)本件建物(同目録記載の建物)の持分の八分の一につき所有権移転登記手続を求め、全部勝訴の判決を得た。この判決に対し被上告人田近が控訴したことろ(大阪高等裁判所昭和四四年(ネ)第一二〇六号所有権確認等請求事件)、上告人は、昭和四七年七月二八日原審に対し同日付の「準備書面」と題する書面を提出し、これを原審第一一回口頭弁論期日において陳述している。この準備書面には、「昭和四四年(ネ)第一一五〇号、昭和四四年(ネ)第一二〇六号第一審原告内谷敬三第一審被告内谷恵美子外二名」の記載があり、また、請求の趣旨を、(4)本件電話加入権が上告人の所有に属することの確認、(5)本件土地及び建物に対するさとの持分につき所有権移転登記手続、(6)本件土地及び建物が上告人の所有に属することの確認を求める、と訂正する旨記載されている。そして、大阪高等裁判所昭和四四年(ネ)第一二〇六号事件は、大阪地方裁判所昭和四一年(ワ)第四四二五号事件判決に対し被告(被上告人)田近の控訴申立にかかる事件であり、また、右準備書面には四万一二五〇円の印紙が貼付されている。
以上の事実によれば、右準備書面の記載によつて附帯控訴の当事者及び第一審判決の表示に欠けるところはなく、また、附帯控訴の趣旨も明らかであると認めることができ、貼付印紙額も不足するところはないから、上告人は、右準備書面を原審に提出したことによつて適式な附帯控訴を提起したものと解すべきである。そして、記録によれば、被上告人田近は、右準備書面による上告人の請求の拡張について異議を述べていないことが明らかであるから(原審第一一回口頭弁論調書、記録二一八丁)、右請求の拡張は、訴変更の要件が具備されたかどうかを論ずるまでもなく、適法というべきである。したがつて、前記(6)の請求は、原審に適法に係属したものというべきである。
しかるに、原判決は、上告人が被上告人田近に対し附帯控訴の手続をとつていないとの理由をもつて、(6)の請求は原審に係属していないと判断しているが、右は民訴法三七四条、三六七条の解釈適用を誤つたものというべきであり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。よつて、原判決中上告人敗訴部分のうち被上告人田近に対し本件土地及び建物が上告人の所有に属することの確認を求める請求に関する部分は破棄を免れない。そして、右請求の当否についてはさらに審理を尽くさせる必要があるから、右部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。
しかしながら、上告人のその余の上告は、上告理由第一点ないし第三点について判示したとおり理由がないから、これを棄却
(裁判長裁判官 下田武三 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 岸 盛一 裁判官 岸上康夫)